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金沢地方裁判所 昭和35年(レ)26号 判決

控訴人 小坂時雄

被控訴人 野口常治 外一名

主文

原判決中、被控訴人入江健司に対する所有権確認請求に関する部分を取り消す。

控訴人と被控訴人入江健司との関係において、別紙図面表示の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(イ)の各点を順次連結した線によつ囲まれた部分が控訴人の所有であることを確認する。

控訴人の被控訴人野口常治に対する所有権確認請求に関する部分の本件控訴を棄却する。

控訴人の被控訴人両名に対する更正登記につき承諾を求める請求を棄却する。

訴訟費用中、控訴人と被控訴人入江健司との間に生じた分は第一、二審とも控訴人と被控訴人入江健司との平等負担とし、控訴人と被控訴人野口常治との間の控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す、別紙図面表示の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(イ)の各点を順次連結した線によつて囲まれた部分(金沢市石屋小路三十七番の二宅地、実測十八坪三合五勺)が控訴人の所有であることを確認する、被控訴人等は、控訴人において金沢市石屋小路三十七番の二宅地一坪とあるのを、同所同番の二宅地十八坪三合五勺と更正登記手続をなすにつき、その承諾をせよ、訴訟費用は、第一、二審共被控訴人等の負担とする、」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却並びに更正登記につき承諾を求める部分につき請求棄却の判決を求めた。

控訴代理人は、請求の原因として、

(一)  控訴人は昭和二十二年八月六日、訴外松原勘二より、同人所有の金沢市石屋小路三十七番の二宅地とその地上にある木造瓦葺二階建居宅一棟建坪十三坪七合五勺外二階七坪五合(以下本件家屋という)を代金三万七千円で買い受け、昭和三十三年三月四日、その旨の所有権取得登記手続をなした。

(二)  ところで、右買受にかかる土地の範囲は、別紙図面表示の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(イ)の各点を順次連結した線によつて囲まれた部分(以下右部分を本件土地という)であつて、その実側面積は十八坪三合五勺であり、しかも控訴人は右売買に際して売主の指示により、本件土地が前記三十七番の二宅地でその面積が十七坪五合であるものとして、これを買い受けたのにかかわらず、登記簿上は錯誤によりその面積が一坪として表示されている。

(三)  しかして、被控訴人等はいずれも本件土地の隣接地の所有者であるところ、控訴人が本件土地につき所有権を有することを争い、かつ控訴人において、右登記の表示(坪数)の更正をなすにつきその承諾をしないので、ここに被控訴人等に対し、本件土地の所有権の確認並びに更正登記についての承諾を求めるため本訴請求に及んだ。

と述べ、

立証として、甲第一号証の一、二、第二号証、第四ないし第二十三号証、第二十四号証の一ないし三を提出し、原審及び当審における証人小坂艶子、同小坂和宏、原審証人新保勝次、同西河透、同山本弥三郎の各証言、当審における検証及び鑑定の結果並びに原審における被告本人松原勘二(第一回)、原審及び当審における控訴人本人の各尋問の結果を援用し、乙第一号証の成立を認める、と述べた。

被控訴代理人は、答弁として、

控訴人の主張事実中、控訴人がその主張の日に訴外松原勘二より同人所有の金沢市石屋小路三十七番の二宅地と本件家屋を買い受けたこと及び右土地が登記簿上一坪として表示されていることは認めるが、その余は争う。訴外松原勘二は、控訴人に対し、金沢市石屋小路三十七番の二宅地一坪を売り渡したものであつて、このことは、同人において右売買にさきだち昭和二十二年四月十六日同所三十七番宅地を同番(十九坪)及び同番の二(一坪)に分筆し、前者を被控訴人入江健司に、後者を控訴人にそれぞれ譲渡したことから明白である。

と述べ、

立証として、乙第一号証を提出し、当審における検証の結果並びに原審における被告本人松原勘二(第二回)、原審及び当審における被控訴人本人入江健司の各尋問の結果を援用し、甲第一号証の一、二、第六号証、第八号証、第十ないし第二十三号証の成立を認め、甲第十九号証を利益に援用する、その余の甲号各証は不知、と述べた。

理由

一、先ず控訴人の被控訴人両名に対する本件土地の所有権確認請求の当否について判断する。

控訴人が昭和二十二年八月六日訴外松原勘二より、同人所有の金沢市石屋小路三十七番の二宅地と本件家屋を買い受けたこと及び右宅地が登記簿上一坪として表示されていることは当事者間に争がない。

成立に争いのない甲第一号証の一、二、甲第八号証、甲第十ないし第二十三号証及び乙第一号証、原審証人西河透の証言により真正に成立したものと認められる甲第二号証、原審証人小坂艶子の証言により真正に成立したものと認められる甲第七号証、当審証人小坂艶子の証言により真正に成立したものと認められる甲第九号証、原審及び当審における証人小坂艶子、同小坂和宏、原審証人新保勝次、同山本弥三郎の各証言、原審及び当審における控訴人本人小坂時雄、被控訴人本人入江健司の各尋問の結果並びに当審における検証及び鑑定の結果によれば、控訴人は、もと大阪市内に居住していたところ、昭和十九年頃、戦災のため家族を伴つて金沢市石屋小路に疎開し、当時訴外新保勝次が訴外松原勘二より賃借していた家屋(現在被控訴人入江が居住している家屋)に入居したが、右家屋とその西隣の本件家屋並びにその敷地はいずれも訴外松原の所有であつて、右各家屋の敷地は公簿上一筆の土地(同市石屋小路三十七番)であつたこと、ところが、昭和二十二年三月頃、訴外松原より控訴人に対し、右控訴人居住家屋及びその敷地を売却したい旨の申入があつたが、控訴人が右申入に応じなかつたところ、訴外松原は、これを被控訴人入江に売却しようとし、同年四月十六日右三十七番宅地を同番(十九坪)及び同番の二(一坪)に分筆した上、同年五月頃、右屋をその敷地(別紙図面表示の(イ)、(ロ)、(ト)、(ヘ)、(イ)の各点を順次連結した線によつて囲まれた部分、実測十五家坪一合二勺)と共に代金三万円で被控訴人入江に売却する旨の契約を締結し、その頃同人に対して右家屋及びさきに分筆した前記三十七番宅地十九坪につき売買による所有権移転登記手続をしたこと、その後同年七月頃、訴外松原が控訴人に対して、右家屋に隣接する本件家屋(当時訴外沢田が賃借居住していた)及びその敷地を買取られたい旨申し入れてきたので、同年八月六日控訴人の妻訴外小坂艶子が控訴人を代理して訴外松原との間に、本件家屋及びその敷地である本件土地(別紙図面表示の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(イ)の各点を順次連結した線によつて囲まれた部分、実測十八坪三合五勺)を代金三万七千円、手附金三千円、残代金の支払は、売主において本件家屋の居住者を退去させ、本件家屋及びその敷地の所有権移転登記手続と同時になすべき旨の約定で買い受ける契約を締結し、その頃手附金三千円を訴外松原に交付したこと、しかるに、訴外松原が右約定に反し、前記所有権移転登記手続を履践しなかつたので、控訴人は、訴外松原を相手取つて金沢地方裁判所に該所有権移転登記請求訴訟(昭和二七年(ワ)第二三〇号)を提起したところ、第一審においては控訴人が敗訴したが、控訴審においては、本件家屋と前記三十七番の二宅地一坪につき売買契約が成立したと認定されて、本件家屋及び右三十七番の二宅地一坪についてその所有権移転登記の請求が認容され、該判決に対し訴外松原より上告の申立がなされたが、上告棄却の判決があつてこれが確定し、右判決に基き、控訴人において昭和三十三年頃、本件家屋及び右宅地一坪につき所有権取得登記手続をなしたこと、並びに被控訴人入江は本件土地が控訴人の所有に属することを争い、却つて右土地が自己の所有である旨主張して譲らないことを認めることができ、右認定に反する原審及び当審における被控訴人本人入江健司の各尋問の結果並びに原審における被告本人松原勘二の尋問結果(第一、二回)はにわかに措信できず、他には右認定を左右するに足る証拠はない。

以上認定の事実によれば、被控訴人入江と訴外松原間の前記売買においては、土地については前記三十七番宅地のうち、別紙図面表示の(イ)、(ロ)、(ト)、(ヘ)、(イ)の各点を順次連結した線によつて囲まれた部分がその売買の目的となつたものであり、そして、前記三十七番宅地のうち、被控訴人入江の買受けにかかる部分以外の部分(本件土地)は、控訴人が前認定の売買により、それが前記三十七番の二宅地であるとして、その所有権を取得したものと認めるのが相当である。

もつとも被控訴人入江は前記売買に基き、分筆後の前記三十七番宅地十九坪につきその所有権取得登記手続を経由し、又控訴人は前認定の売買に因り、分筆後の前記三十七番の二宅地一坪につきその所有権取得登記手続を経由したことは前段認定のとおりであり、従つて、登記簿上の表示と実状との間に相違がある訳であるけれども、右の相違は、訴外松原において前記三十七番宅地を分筆するに際し、被控訴人入江に売却することにした部分を三十七番又は同番の一、後に控訴人に売却した部分を同番の二として、正確にその坪数を表示すべきであつたのに、三十七番の登記簿上の表示(二十坪)と実状(三十三坪余)との間の不一致に基因する何らかの錯誤により、前記のような分筆がなされた結果生ずるに至つたものであることが前段認定の事実から推認することができるから右のように登記簿上の表示と実状との間に不一致があるからといつて、前記認定の妨げとなるものではない。

しかして、被控訴人入江が控訴人の本件土地に対する所有権を争つていることは前認定のとおりであるから、同被控訴人に対する右所有権確認の請求はその理由があるものというべきであるが、控訴人と被控訴人野口との関係においては、控訴人の本件土地に対する所有権の存否及びその範囲につき何ら争のないことが弁論の全趣旨によつて窺知できるから、同被控訴人に対する所有権確認の請求は、その確認の利益を欠き、失当である。

二、次に、控訴人の被控訴人両名に対する更正登記につき承諾を求める請求の当否について判断するに、前認定のとおり、控訴人所有の本件土地は、その実測面積が十八坪三合五勺であるのに、登記簿上錯誤により一坪として表示されているところ、前認定の諸事情を考え合わせるならば、登記簿上の表示と実状との間にかような不一致があつても、なお右登記が本件土地を公示しているものと認められ、従つて、前記の宅地一坪の表示を宅地十八坪三合五勺と更正してもその間に登記の同一性があるものということができるから、控訴人は、右のようにその登記の更正を求め得るものというべきである。しかしながら、本件のような不動産の表示に関する更正登記の場合には、権利自体に関する記載の更正登記の場合と異なり、その申請にあたり、登記上利害関係ある第三者の承諾書又はこれに対抗し得べき裁判の謄本の添附を要しないものと解するのが相当であるから、これと相反する見解に立つて、本件土地の隣接地の所有者である被控訴人両名に対して前記更正登記につきその承諾を求める控訴人の本訴請求はその必要性を欠き、失当であることは明らかである。

三、以上の次第で、控訴人の本訴請求中、被控訴人入江に対して本件土地の所有権の確認を求める部分はその理由があるからこれを認容すべきであるが、その余はいずれも失当であるから、これを棄却すべきである。

そこで、原判決中、控訴人の被控訴人入江に対する所有権確認請求に関する部分を取り消して右請求を認容し、控訴人の被控訴人野口に対する所有権確認請求に関する部分については右請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴はその理由がないから、これを棄却する。なお控訴人の被控訴人両名に対する更正登記につき承諾を求める請求は、当審において、従前の土地台帳の更正登録につき同意を求める請求に代えて新たに追加したものであるが、右請求の理由のないこと前段説示のとおりであるから、これを棄却することとする。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第九十六条、第八十九条、第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山田正武 松岡登 花尻尚)

図〈省略〉

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